米国で起業する際に役立つ10のアドバイス

最近ではどうやら不景気にもかかわらず日本では海外進出ラッシュのようで、Greeやモバゲーに限らず、岩田君率いるロックオンの様なベンチャー企業までがどんどんと海外に進出しているようです。

もともと、私の場合1996年に日本在住の大学生であった頃から、親の有限会社を間借りしてインターネットビジネスを始め、同時期に興味本位でデラウェア州に米国法人を立ち上げ、結局その使い方もわからずじまいのまま1997年に知り合いのお手伝いでシリコンバレーに渡米しました。その後大学卒業のために一旦1997年中に帰国し、1998年春の卒業と共にそのまままた渡米してカリフォルニアで本格起業、という変則的な起業人生を送ってきました。

日本でもまともに経営経験のないまま、ある意味まっさらの状態で仲間のエンジニアたちを引っ張って行って米国で起業したわけですが、当然のことながら右も左もわからず、人にだまされたり、ぼったくられたり、果てには元社員に謎の訴訟をされたり、金をごまかして払わない決済銀行への訴訟にチャレンジしたりと、米国での起業家ならではの特異な経験もしてきたわけです。

さて、先述のGreeやモバゲーのように何億もの資金をぶっこんで、一流のプロを雇って米国で起業できる大企業は別として、ロックオンの岩田君ように自ら単身シリコンバレーに乗り込んでいっている姿を見ると、昔の自分を思い出して血が騒ぐのです。(もうおっさんだということなのでしょうか・・。)その彼と先日話をする機会があり、その際にふと思ったのです。ひょっとしてこの私の特異な経験が、自ら米国で起業したい人の役に立つのではないかと。

そこで、自分の経験に基づいて、米国で起業したい人に役立つであろうポイントをいくつかまとめてみました。

なお、起業家向けの内容故に、中には雇う側としての一方的な表現や、雇われる側から見たら不快に感じうる箇所もありますが、そこは我々経営者の陥りうる最悪のトラブル例としてご容赦いただければと思います。

1. 現地人とつるめ

駐在員の方を含め、たいていの場合言語の問題もあり、現地の日本人と仲良くなる方が多いのです。日本人起業家も同じパターンが多いでしょう。当然のことながら彼ら現地の日本人は現地での知識はありますから、いろいろと役に立つアドバイスをしてくれますので、そういった人たちと仲が良くなることは当然ですね。

しかし、ここで注意すべきは、その人間関係が起業や経営においての幅を大きく狭める可能性が高いと言う事です。

私の場合はとんがった偏屈人間でしたし、米国でどうにか成功してみたいという若造の野望がありましたので、あえて現地の人たちと音楽や車と言った趣味を通じていわゆる「つるんで」おりました。言葉も中途半端にいきなりバンドやろうぜ、などと誘うわけです。しかし現地の日本人の方々はやはり日本人コミュニティを形成されている場合が多く、そのコミュニティに入ろうとすると生活パターンにその色がつきます。

そして、そこにどっぷりと浸かり始めると、下手をすると5年も住んでいても英語がたどたどしいなんてこともざらで、ましては社長なのにもかかわらず、日本語と英語ができるバイリンガル社員経由でしかまともに仕事ができない、なんてことも実際によく見た光景です。

これは、現地の日本人の方のコミュニティを否定するわけではありません。ただ、自らわざわざ米国に乗り込んでいくのであれば、自分の視野と経験の幅を狭める理由はありません。自分も日本人の友人は数多くいましたが、そこに自分の世界を限定しないようにしていた、ということです。

とにかく現地の人たちとつるんで、現地の生の文化に触れましょう。それには、自分の趣味から入ることがおすすめです。自分は毎週末San JoseのGuitar CenterとStevens Creekの自動車ディーラーに通って友達を増やしていました。そして、そこからも現地の起業家たちにつながっていくのです。

とにかく、現地人とつるみましょう。

2. フレンドリー且つ紳士的に

現地でビジネスを始めると感じ始めるのが、アメリカ人が、特に経営者が皆フレンドリーだと言う事です。

もう10年も前にとあるデビット決済専用の銀行に出資できるチャンスがありました(倒産して大損しました)が、VISAやMaster Cardの創始者のじいさんや、First Dataの代表の方たちとお直接目にかかる機会がありました。いわば決済業界の重鎮ということですね。24歳だった私なんて米粒みたいなもんです。

そして彼らと初お目見えの場で、一緒に会議テーブルにつくわけですが、驚くべきことにその重鎮たちが名刺を手裏剣のようにテーブルをスライドさせながら配布してました(笑)。若造の私もその真似をしましたが・・・。

当然のことながらその場では私以外がみな顔見知りで、これは特例じゃないの?と思われるかもしれませんが、これがまた普通にビジネスの場で起こりうる現象なのです。おそらくこれを日本でやれば、アホかと思われてまともに相手にしてもらえないでしょう。

これは行き過ぎた例ですが、とにかく米国の方は、特に起業家のかたはフレンドリーな関係になるまでのスピードが速いのです。もともと敬語というものをあまり用いない文化でもありますが、一定の関係を築ければ皆ファーストネームで呼び合いますし、まず握手から入るというのも大きな要因かもしれません。

しかし、そこだけを真似しているとただのRude Guyになり得る可能性もあるわけです。彼らに例外なく共通なのは、フレンドリーであることと同時に紳士的であると言う事です。

その両方が両立した上で、真剣な中にもユーモアを交え、それでいて且つ有益なコミュニケーションを取りますので、現地の起業家の方とのコミュニケーションは非常に刺激的です。

When in the USA, do as the USA doじゃないですが、この資質は米国での起業に必要かもしれません。

米国ではフレンドリー且つ紳士的に、です。

3. 弁護士などのプロを慎重に且つフルに使いこなせ

米国でも、登記から雇用まで、もちろん自分で調べてすべてまかなうことも可能ですが、そこには大きなリスクが伴います。

当然のことながら日本でも経営において、弁護士、税理士、会計士、などのプロフェッショナルを雇うことはあたりまえですが、米国ではちょっと具合が違います。

まずは、米国ではそれらプロフェッショナルの敷居が日本よりも低いことから、人材のレベルも幅が低いのです。最悪の場合、自分よりも知識のない弁護士に出くわすこともまれではありません。

ところが、腕利きの弁護士の場合は、1時間当たりの報酬が何倍にも跳ね上がるわけです。たとえば、私がトラブルに巻き込まれた際に雇った刑事弁護士などは、1時間450ドルという価格・・・。そしてそのような事務所でもたいていJunior Attorneyという比較的安い弁護士も所属していますから、必要な品質と仕事の内容によって複数の事務所や弁護士を使い分けるしかないのです。

次に、米国で一番注意すべきは法律が州によって異なるということです。賢い相手になると、州法の差異を狙って違う州で訴訟してくることもあります。面白い例で言いますと、スパムメールを取り扱う法律も州によってばらばらで、とある州では1通当たりの罰金が2,000ドルを超えます。検察庁(US Attorney)でさえ、起訴する際に有利な州からの裁判に変えてくるほどの国なのです。ちなみに、カリフォルニア人でもわざわざネバダ州で結婚式を挙げるのもこのような理由からですね。カリフォルニアより離婚訴訟が解決しやすいからです(笑)。

そしてもう一点、特にビザを取り扱う移民法などで顕著なのですが、法規がころころ頻繁に改訂されるということです。怠慢な弁護士や会計士となると、それら改訂に追いついていないままだらだらと流れ作業をこなしているだけのところもあるわけです。

それだけではありません、相手が外国人となると揚げ足を取って不正を働く弁護士もざらにいます。一番わかりやすいひどい話では、H1Bなどの就労ビザの発行枠が毎年決まっているのですが、それがもうなくなってしまっていることを知っておきながら高い手数料だけを取って書類を平気で作成し、落ちることが決まっている審査に提出する弁護士もいます。

先ほどのスパムの法律の例を挙げましたが、州法が本当にもうばらばらで、すべての法律に追いつくことなどはとうてい不可能なわけです。ですから、弁護士や会計士は日本のようにトラブルが起こってから雇う物ではなく、ある程度予算を決めておいてリスク回避の費用として準備することが必要になってきます。

たとえば、自分が米国で日本の自動車用コーティング剤を輸入して販売しようとしたときですが、本来であれば全部の州の薬品に関する検査の規定をクリアせねばなりませんでした。ところがそんなことはとうてい不可能なわけです。ですので、弁護士の調査によりある程度標準となる州のテストのみをクリアし、リスクをその時点での最小限に抑えたのでした。この場合、1時間いくらの弁護士に、どこまでのリスク回避のために、どれだけの予算を割くかと言う事を自分で考えねばなりません。すべての州に準拠してリスクを本当の最小限にするのは、事業が儲けて資金ができてから、ということですね。

米国ではそれらプロフェッショナル利用のさじ加減が中小企業の運営で非常にリスク管理とコスト管理の面から重要になってきます。

これを怠ると、あとで税金でしっぺ返しを食らったり、ビザの発行ができなくなってしまったりと、予想以上の被害を被ることになる可能性もあります。

法人形態一つについても同様なのです。まともな会計士+弁護士であれば、最初からCコーポレーションが良いのか、それともLLCからはじめて後にCコーポレーションを子会社として作るのが良いのか、などとアドバイスをくれることでしょう。これをその辺の日本語でもサービスをしている謎の代理店に頼むと、最初から選択肢がCコーポレーションしかなかったり、LLCとの違いをも教えてくれなかったりするわけです。日本と登記時のコストが低いにも関わらず、後の税制や法務の面でのリスクも大きくなりますので、この辺も最初からプロに頼んでスキームを考えておくことをおすすめします。何も考えずに登記すると、あとで大きな損をしますよ。

ちなみに、訴訟、訴訟と行っていますが、本当に訴訟されることなんてあるの?と思われるかもしれません。ところが、本当にいつ降りかかって来るかわからないのです。その一番極端な例をおひとつ。

一時期パロアルトでナイトクラブ兼ライブハウスを経営していたのですが、とあるアメリカの若い弁護士グループから訴状が届きました。

「御社の経営するナイトクラブでは、ガールズナイトを催しているにも関わらず、ボーイズナイトを催しておらず、よってこれはれっきとした男女差別であるとみなしますのでここに代表して訴訟します。」

もうこれを見たらアホかとしか言いようがありません(笑)。彼らの訴訟金額は3,000ドルで、微妙にこちらの訴訟費用等を考えれば支払った方が早い金額に設定してある訳です。これをひたすら電話帳をめくってアメリカ中のガールズナイトしか開催していないナイトクラブに送りつけている訳です。

びびった会社はおそらくこの3,000ドルを支払うのでしょう。私は無視しましたが結局裁判にまで至りませんでした。

このような本当に作り話のような訴訟もありますので、起こりうるという前提でリスク管理をすべきだと言う事を信じてもらえたのではないでしょうか?

すごい簡潔にまとめれば、「アホでも起業できるかわりに、しっぺ返しはでかいので、リスク管理として適切予算で適切なプロを最初から雇いましょう」ということです。

4. 契約による明文化の文化に慣れろ

英語には日本語ほどのあいまい文化はないのです。もちろん人間のコミュニケーションですから、言語にはそういった表現もありますが、契約書をはじめとするビジネス文書では全く関係ありません。

日本のような、微妙な商習慣による謎の取り決めに左右される、たとえば「誠意を持って協議する」と表記するような文言は契約書で全くの意味をなしません。というよりそんな馬鹿な表記はありえません。

契約書に書かれていないことは、法律で取り決められていない限りは書かれていないこと。ようするに、契約の条件面はすべて書面に盛り込まれるわけです。当然と言えば当然ですが、日本では経験上どうみてもそうではありませんし。

それどころか、法律でもともと取り決められているとしても、たいていの場合それを無視した様な表記を用いる場合も少なくありません。たとえば、ウェブサイトの利用規約によく見られるように「訴訟する権利を放棄する」といったような文言です。当然のことながら訴訟するのは自由ですが、係争のシチュエーションや裁判を起こす州によっては有利に働く可能性もあり、一方的な契約書にはおきまりのようにそのような法規を無視した表記が含まれています。実際私自身もそれが武器となり勝てたケースもありました。

一番日米の差異がわかりやすい例はNDAでしょう。日本では握手代わりになんら拘束力もない数ページ足らずの無意味なNDAにサインさせられますが、私がサインしていたNDAではだいたいレターサイズで10ページかもしくはそれ以上が常識でした。その内容には情報が漏洩した際の罰金規定や損害賠償規定なども細かく書き記されていました。当然のことながら「誠意を持って」などの表記は皆無です。DNA一つのサインでも若造の自分には当初はどれだけ緊張したことか・・・。

ようするに、誠意なんてなくて当たり前だから契約書にするわけで、裁判所も日本のようにできるだけ示談に持って行くような提言はあまりなく、のちに係争になればどんな細かいことでもとことん出し合うことになるのですから、最初から非常に細かい取り決めをすべて矛盾なく文書に明文化する必要があります。

確かに米国はこの面は行き過ぎている感は否めません。結婚に何十ページもの契約書を作ったりすることも普通にありますし、ハリウッドスターやロックスターの来日などでも、座る椅子のメーカーや移動手段の限定、最大歩かせてもよい歩数までが盛り込まれた数百ページの契約書を作成するなんてことも当たり前ですから。

しかし、これはリスク管理の概念として米国での起業家には必須なのです。

ですから、まず「誠意」や「普通わかってくれるよね」といったような概念はまず捨ててください。矛盾のなきプログラムを書くかのように、契約書や通知内容をすべて明文化することにしてください。

5. 何ごとも交渉次第と考えよ

前項の通り、契約書の条件はたいてい日本のそれよりも明文化されているわけですが、言い返せば条件が合わないことも比較的その場でわかりやすいと言えます。そのようなことから、契約書には最初から無茶な条件が載ってることも多いのです。

この点に関しては、アントレナーシップとして日本でも当然と言われるかもしれませんが、その条件はどのような状況でも交渉次第で変えることができるとなるわけです。

それが、個人による契約にも適用されるのが面白いところです。

自分がはじめて1998年にサニーベルのアパートを借りた時は、まだちゃんと給与を取れる体制でもなかったので、米国での収入をTax Returnで証明する手段がありませんでした。当然のことながら契約書の内容そのままでは入居の申し込みすらできないと言われたわけです。さらに、そのころはシリコンバレーバブル前の成長期でしたので入居希望者も多く、わざわざ公式のTax Returnも用意できない人間を入居させることも必要のない状況でした。

そこで私は、数ヶ月分ほどの家賃前払いと、デポジット(保証金)の増額をカウンターオファーし無事契約をすることができました。その冒険もあってか、その後社員を紹介しても入居は比較的楽でした。

当然のことながら事務所の賃貸契約書の条件交渉の幅も大きく、するとしないではかなり損してしまいます。弊社でも一時は13500スクウェアフィート(約1,250平米=378坪)の事務所を借りていましたが、途中家賃交渉すると2万ドル強の家賃が1万ドル強まで下げてもらうことができました。

今まで、日本で雇用する際に、雇用条件を口頭で交渉する社員はいましたが、最後の契約内容の文言の詳細までを交渉してくる者はいませんでした。米国では最初からエージェントや弁護士をつけて契約に挑んでくることも普通です。

何事も交渉次第なのは日本でも同じと言われるかもしれませんが、米国では先方からハードな交渉がやってくることも多いほか、そのことを前提として最初からできる限りの条件が盛り込まれているため、交渉しないイコール自分の利益が最大限にはならないということですね。

ですので、米国では日本以上に何事も交渉次第、としておきましょう。

6. いわゆる人種差別はあるが利点にもなりうる

まだ米国に人種差別はあるのか?

ずばりまだあります。

私の経験では、ある一人の警察官に「日本人はToyotaに乗っていろ」と言われたり、法定速度で走っているにもかかわらず「スピードを落とせ」と言われたり、果てにはトラックに乗った女性に衝突されたのにその現場に現れて「おまえがぶつけたんだろう」と言われたことがあります。3回とも同じ人物にです。どうやら日本人嫌いの警官に目をつけられたようです。

また、アジア人で日本車の改造車を走らせていると、米を食っているレーサーという意味の造語で「Ricer」と呼ばれたりします。

それはあくまでも差別の一例ですし、経営という面ではそのことがネックになることもほとんどなく、現地の経営者の方に限ってはそのような差別意識を持つ傾向はますます薄いと感じられます。ただ一部の人はまだその差別意識を持っているというわけですね。

また、トラブルに巻き込まれた際には、外国人であると言う事から必要以上に目をつけられたこともあります。その理由がいつでも日本に逃げて帰るだろうという理由からでしたが・・・。

米国での日本人経営者が、就労ビザを取得して米国で働くということは、通常アメリカ人であれば些細なトラブルで済むことが、下手をすれば会社の存続さえをも揺るがすようなリスクに化ける可能性があると言う事だけを頭のどこかに置いておいてください。

しかし、外国人である点が逆に有利に作用したこともあります。

それはとある裁判でした。わざと英語の通訳をつけたのです。これは、腕利きの弁護士の戦略上のアドバイスを受けてそうしたのですが、その通訳自体も腕利きのバイリンガル日本人弁護士を雇ったのでした。

どういうことかと言いますと、私は供述であえてたどたどしい英語で相手の弁護士の質問に答えるわけです。すると、通訳となる弁護士が、こちらの有利なような正しい英語に翻訳して、それが正式な供述として採用される訳です。当然のことながら先方はアメリカ人ですから同様の戦略は使えません。先方の供述のアラはすべてこちらの弁護士にひっぺがされて、こちらのアラはすべて通訳となった弁護士が言い換えて、こちらが相手側より有利に事を運ぶことができたというわけです。

これらは極端な例ですが、実際には普段の生活や経営には差し支えることはありません。

ですので、場合によっては人種差別もありえますが、使えるときは武器にしろということです。

7. 人材雇用は割り切れ

「おまえには会社に対する忠誠心などないのかっ!?」「F@#k it!」

いきなりF Wordで失礼いたしましたが、本当にF@#k it!、すなわち糞食らえ、です。そんなことを考慮していると米国では人はまともに雇えません。というか精神的に病みかねません(笑)。

面白い例ですが、元Netscapeで元Yahoo!で元GoogleなFacebook社員ってのが平気で存在するのがシリコンバレーです。もともと能力や実績で年俸が大幅に跳ね上がる文化で、人材はどんどん流動していますから、辞められて当たり前だと思っておくのが当然ですし精神衛生上有効な防御手段です。

シリコンバレーバブル時には、大手企業が雇用契約にサインするエンジニア全員にBMW Z3を配っていました。そんな企業の引き抜きに平気で人材は流出しますから、そんなことをいちいち気にしてカウンターオファーを出し続けていたら会社がつぶれます。力と金がないなら去る者は追わず、ですね。

もちろん人間ですから、一緒に何かを作る仲間意識は存在しますが、日本に比べ人材の流動性が高いのが事実であり、忠誠心や誠意などという侍スピリッツに頼っていると本当に何年かしたら精神的に病みます。

ですので、その分能力のある社員には相当の給与を与えるか、将来の夢の共有であるストックオプションを与えるか、ということになります。上場や売却しなければ価値がないのは当然ですが。

ただし、その傾向から外れる場合があるのはエンジニアたちです。物作りの匠である彼らは、給与待遇は当然のことながら、物作りのビジョンが共有できないとついてきてくれない傾向が高いのです。その点は万国共通ですね。私なんて当初は20代の熱意だけで優秀なエンジニアたちを大企業から引き抜いたり、誘致したりしていました。今思っても大変身勝手な行為ではあります(笑)。

面白いことに、自ら辞めていった社員が再度雇ってきてくれと言ってきたこともありました。その時はどうしたのか?私はそのポジションに空きがあったので雇いましたよ。

次に、人材雇用でさらに重要な点は雇用契約書です。解雇が日本よりはまだ比較的容易ですが、その分先述の通り可能な限りの条件の明文化が必要です。経営の素人であった自分もこれでかなり痛い目に遭いました。

At Will(任意)に解雇できる条件を盛り込むことは当然のこと、severance package(解雇時の支払いや特別ボーナスを含めたパッケージのこと)の取り決めから、年間就労日数から何まで、日本よりは比較的慎重に雇用契約書を交わす必要があります。なぜなら、皆さん本当にそのまま書面通りに有給を消化しますし、(エンジニア職を除いては)残業なんてまれですし、雇用されたのをいいことに次の日に条件を変えろと言い出す人までいます(笑)。果てには退職ボーナスをよこせなんてこともしょっちゅうですから、最初から決めておいたほうが良いでしょうね。

特に相手が訴訟する際は、裁判ではなくまずは調停にするという旨を雇用契約に追記するだけで、かなり費用を圧縮できます。

さらに会社としてのリスクを最小限にするために、Employee Manual(いわゆる就労規則)をできるだけ綿密に準備し、それにもその文面すべてを読んで理解し、改訂された場合には自らそれを定期的に読んでいる必要があるという旨の書面に別途サインをしてもらいます。

これらを怠ると後に訴訟になった場合にコストがふくれあがり、無駄な時間と精神力を費やすことになります。

私も経験しましたが、こちらの裁判費用を見積もって、その価格のやや下をついて示談を狙うという悪質な人間もおりますので、お互いのことを考えて雇用時には慎重に必要な手続きを済ませておくことが必須です。

ちなみに、私の場合はコストは甚大でしたがその裁判はとことんやることにしました。もし示談してしまって、他の元社員にも悪意があった場合は、その判決内容をもとに芋づる式にやってくるリスクがあるからです。高い勉強でした。結果費用はスーパーカー一台分ほどかかったとだけ言っておきます。

ここで誤解を生まないようにしておきたいのですが、こんなことがほとんどの社員から起こるわけではありません。ただし、日本より発生の確率が高いのは確かでしょう。あくまでも、一例として留意しておくほか、ご自分のリスク管理知識としてお役立てください。

そしてもう一点、雇用には業務内容を当然のことながら明確にしている訳ですが、日本に比べ他人の責任までは手を出さない傾向がありますのでそこにも注意が必要です。

たとえば、取引先に電話して、担当者がバケーションで2週間いないにもかかわらず、緊急だと他の社員に伝えても平気で「私の担当じゃないので受け付けられません。」と言われます。これは裏を返せばあなた自身の経営リスクになり得ると言う事です。

人材雇用は割り切った上で行わなければ、最も大きなリスクになり得るので要注意です。とにかく、ここは雇用ロボになって、会社に有利な状態を考えて契約するしかありません。相手もその割り切りを持っていると、自分も割り切れば良いでしょう。

8. 誇張の文化になれろ

日本でも営業トークというのがありますが、あれがあらゆるところに現れていると思っていただくのが一番早いかと思われます。

たとえば、一番顕著なのが人材募集時に送られてくるResume(履歴書)です。

私は何々のプロジェクトでリーダーを務め、売り上げを1年で1,000万ドルまで成長させました。なんていう表記はもう当たり前です。ところが、実際にはほとんど関係なかったりするなんてこともよくあります。営業職では界王拳3倍4倍なんて当たり前で、これに比べたら某ブログサービスのアクセス水増しなんてかわいいものですよ(笑)

そんな場合は、米国は前職の職場に評判を聞くため電話をかけるのも当然の儀式なのですが、その際に応募者が指名した人物から始め、他の人物にまで聞き込みをすることがポイントです。なぜなら、履歴書のReferenceには仲が良かった上司などを書くことは当然で、悪く言うわけないですからね。

要するにセールスポイントが存在するところでは、最大限の誇張が行われていると思っていただければ良いでしょう。

ただ、その演出が日本よりも上手なので、嘘の領域を超えてしまっているとも言えます(笑)。ですので、その大げさな表現の裏に隠された本質を見抜く必要があります。

ただ、とてつもないこじつけも現れます。

印象に残った2つの例をお教えしましょう。

ある日、エンジニア募集に対して、あるインド人の人材が履歴書を送ってきました。そこにはこう書かれていました。

「私は軍事企業でミサイルの誘導プログラムの設計をしてきました。ですので、御社のEコマースシステムでの顧客誘導には最大限に貢献できることをお約束します。」

うちはミサイル作ってねぇよ・・・・。

またある日、マーケティング・ディレクター募集に対して、とある牧師が履歴書を送ってきました。そこにはこう書かれていました。

「私は毎日人の相談を聞いています。ですので、人の気持ちがわかります。ですので御社のEコマースでも顧客の気持ちがわかるに違いありませんのでお役に立てるかと思われます。」

もうこういう時は笑ってランチのネタにするしかありませんが、こんなことが頻繁に起こります。

わかりやすいので履歴書の話ばかりになってしまいましたが、皆様もご存じのシリコンバレー代表であるAppleも同じです。ただの高精細液晶を「Retina Display(網膜ディスプレイ)」なんて命名するのですから。

ただこの文化がセールス・ピッチ(売り文句)の絶妙なセンスにつながっているのは確かですから、これに慣れて習得しない手はありません。ただ、日本で同じ事を続けていたらよほどのブランド力がないと信用されなくなることも勉強しました(笑)。

ですので、米国では「嘘」にならない程度のクールな最大限の誇張を使いこなせるようになりましょう。

9. 打てばプラスもマイナスも響く

私が米国で起業したかったのは、やはり1996年当時にインターネットがまだ日本で普及していなかった点と、20歳そこそこの若造がやはりまともに取り合ってもらえないという悔しさからでした。どうしても先入観や商慣習から、まともに相手にしてもらえないのでした。

それならば、ITの本場ならどうなのよ?(当時ITなんて言葉もありませんでしたが)という単純な動機からシリコンバレーで起業したわけです。

そこで感じたのは、やはり米国は打てば響く国だ、ということです。

自らアクティブに動き、中身があるならば結果として帰ってくると言う明確なロジックが成立するわけです。

ところが、自分がとんがった若造だったからかもしれませんが、日本ではしがらみや面倒な、曖昧な点が多く、自分のロジックがなぜか形にならないのです。いつもそれを邪魔するのは自分には理解できない理不尽な要素だったのです。すごい燃費もパフォーマンスも悪い車に乗っている感じですね。自分では明確なゴールを作ってそれに向かってアクセルを踏んでいるにもかかわらず、全然加速しないどころか、障害物がどんどん現れるという。

それを、同じ事を米国で試したとろ、思ったように前に進み始めたのが快感でした。銀行も真剣に話をすれば21歳の日本人の若造の話を聞いてくれましたし、事務所スペースの大家も真剣に交渉の席に着いてくれました。ネットでアプローチした企業はこんな外国人にもサービスを提供してくれますし、直接売り込んでもちゃんと人と物を見てくれます。アメリカでは自分が思うように動けてそのままのレスポンスが返ってくるので、アクセルをどんどん踏み込んで行けたのです。

そして、良い物を作っていれば、大物経営者や投資家だって、同じ席について話を聞いてくれて、興味を持ってくれるのです。あんな代えがたい快感はありません。

ところが、そのレスポンスの良さはマイナスの方向にも働くのが怖いところです。失敗やミスもそのまま降りかかって来るからです。アクティブにそしてスピーディーに動ける分、どこかでミスをしたまま突っ走った結果のツケがそのままダイレクトに帰ってくるということですね。おそらく日本だけで起業していたら経験できないような痛い目にたくさん遭いました。

自分が若くて突っ走っていたことも大きく関与しているかもしれませんが、15年たった今でも、その差は縮まっているように見えるものの、やはり米国でのレスポンスは日本のそれに比べてまだかなり良いと感じています。

なお、別に私は米国の方がすべての面で日本に比べて優れている、と思っているような米国至上主義ではありませんので誤解しないでくださいね。自分の経営スタイルと生活スタイルに米国が非常に合っていたというわけです。当時からよく言っているのですが、なぜアメリカなんですか?と聞かれたらこう答えていました。「寿司は日本が一番うまい。でもインターネットはシリコンバレーが一番うまい。」

とにかく、日本で起業された方には理解していただけるでしょうが、今不必要と感じているような根回しや無駄な遠回り、理不尽な障害への配慮は必要ありません。思ったように打てば、響いて返ってきますから。売って返ってきたレスポンスを見て改善するというフィードバックシステムがより効率よく動きます。ですので、とにかく打ちましょう。

10. 遠回りはいらない、直球で自分を表現せよ

本気で交渉や討論を行ったことがない限りは、皆さんがご覧になる米国の経営者は先述の通りユーモアにあふれる、フレンドリーな人物としかとらえられないのではないでしょうか?

ところが、その交渉や討論ともなれば、これはもう本当の論争です。論議戦争です。

もともと、米国では学校で、本当嘘に関わらずチームを対立するチームに分け、ディスカッションさせる授業があるぐらいで、社内のディスカッションが日本人から見ればけんかのように思われることもあるでしょう。

しかし、自分を表現そして主張しなければいつまでも意見が通らないので、ここはそれらを真っ正面から相手にぶつける必要があります。まず、遠慮という言葉のページをあなたの辞書から捨てましょう(笑)。

とにかく、そのぶつけ合いがチームのエネルギーをさらに高めます。そういう場に出れば、上司も部下も関係ありませんので良い結果が出ないわけがありません。

逆に遠回りに気を遣って遠慮すると、あなたの意見はなかったことにされますので注意しましょう(笑)。

頭が良い人たちとこれを日常に繰り返していますと、かなり勉強になります。経営者であれば、専門的に自分より詳しい社員たちとこれをすることもあるわけですから、かなりの精神力が必要です。その分楽しいのですが。これもまた、向き不向きがあるでしょうね。

ところが、何度も言いますように割り切った面のある文化ですので、その討論があとで個人の関係に尾を引くといったことはありません。この国は、裁判をしていた相手と次の日に握手をしたり、離婚した相手通しが新しい恋人を紹介し合って4人でディナーに行けるアングロサクソンな国ですよ。

日本に再び戻り始めた頃は、このスタンスと日本風スタンスを使い分ける状態に戻るまでは苦労しました。「容赦ない」や「配慮がない」という言葉をよく浴びせられるわけです。その二つのスタイルが使い分けられればやっと大人の国際経営者(?)に慣れるのでしょうが、なかなか難しいものです。

とにかく、日本であなたが70%の踏み具合で自分を主張しているならば、米校ではレッドゾーンまで踏み込んでから微調整してください。そうすれば、私よりも上手になるはずです。もともと直球タイプの方は、ストレスがたまらないので快感を得られるでしょう(笑)

まとめ

さて、今回は思いつくままに自分が米国の起業と経営で感じてきて、同様のことを計画されている方のお役に立てるであろうという点を一気に書いてみたのですが、いかがでしょうか?

「無駄な節操を捨てる。」

「『事』を憎んで『人』を憎まず。」

それが私が一番感じた米国での企業経営のコツです。

あまり後先を考えなかったので、とりとめのない長い文章になってしまいましたが、今後も思いつくたびに加筆して改定いきたいと思います。

また、タイトル自体がこれですから、いわゆる直接的な表現やアメリカ的な(?)演出も多く、偏った内容で一部の方の誤解を生むかもしれませんが、その点はツイートやコメントでご意見をいただければ後に見直して行きたいと思います。

さて、私の経験や知識があなたのお役に立てるのかどうか・・・。ご意見・ご感想をお待ちしております。

4件のコメント

  • すごく勉強になりました!実際に経験をしている人の声は本当に参考になります!

  • 非常に面白く拝見させていただきました。
    小生もシリコンバレーに在住し、当地の商慣習や文化に慣れてきたところで非常に納得の内容でした。

Takao Asayama (朝山貴生) へ返信する コメントをキャンセル

Top