『拝啓マーク・ザッカーバーグ様』 – 広告収益モデルが引き起こすオープン・プラットフォームの矛盾そしてデベロッパー達との確執

昨日、欧米のテック業界では一通の手紙が話題となりました。

手紙と言っても、とあるデベロッパーがFacebook創始者マーク・ザッカーバーグ氏宛にブログにて公開したいわゆるオープンレターです。

その人物はDalton Caldwell氏。

Caldwell氏は、スタンフォード卒の起業家であり、過去音楽サービスをMySpaceに売却した経験もあり、先日はちょうどInstagramがAndroidに進出してきた際に、競合サービスであったPicplzを閉鎖したばかりでした。

現在Caldwell氏は、オープンなリアルタイムソーシャルフィードapp.netを実現すべく、自らクラウドファンディングを実施しています。

まずは彼の本音を綴ったレターを全文翻訳しましたのでそちらをお読みください。

Mark、

2012年6月13日の午後4時30分、僕はカリフォルニア州のメンロパークにあるFacebookの本社で行われた会議に出席した。この会議には次のような肩書きを持つFacebookの幹部らが出席した。「エンジニアリング&プロダクト・バイスプレジデント」、「パートナーシップ・バイスプレジデント」、「コーポレート&ビジネスディベロップメント・バイスプレジデント」、「ディベロッパーリレーションズ/オープングラフ・ディレクター」

あの時の僕の理解では、会議の目的は僕がFacebookのプラットフォーム上で作っている、iOS向けの新しいアプリやサービスをプレゼンしたりデモしたりすることだった。僕はFacebookのディベロッパーリレーションズの社員から、オープングラフとFacebookのプラットフォームの僕のサービスによる使い方は興味深く、価値があるものだと聞かされていた。僕が期待していたことは、この会議の結果として、間近に迫った僕のプロダクトの提供開始を、幹部レベルの人たちが支援してくれることだった。

僕の作っていたプロダクトは、最近発表されたFacebook App Centerと競合すると会議に参加した人たちから言われ、会議はおかしな方向に進んだ。また、君の会社の幹部社員たちから、僕が作った「興味深いプロダクト」と競合したくないことや、僕は「評判が良くていい奴」だから、アプリセンターの開発を手伝ってもらうため、僕の会社を買収したいと言われた。

僕は即座に疑念を覚え、買収されて社員の一員として働くことには興味がないと伝えた。Facebookが僕のチームやプロダクトを手に入れることについて、きちんと話をしたいのならば、僕はその提案について考えてみるのもいいかと思う、と伝えた。そうでないのなら、自分のプロダクトを取りやめてFacebookに加わることに、まったく興味がなかった。その選択をするのであれば、自分の会社を一から始めるほうが良いと君のチームに伝えた。

おかしなことに、「プラットフォーム・ディベロッパー・リレーションズ」の幹部は、一切僕の立場を守ろうとはしなかった。それどころか、彼は最近アプリセンターの管理権限を与えられていることや、開発中の新しい広告ユニットのため、現在、年間10億ドル以上の広告収入の責任者であることを僕に説明した。会議に出席した幹部らは、僕のプロダクトが成功した場合、君の会社の広告収入目標の妨げになること、したがって、買収される機会を僕に与えるだけでも、彼らにとっては崇高で寛大なやり方だということをはっきりと伝えてきた。

Mark、この声が君まで届いたかどうかわからないけど、この件の後、僕がこの状況をどれだけ不満に思っているかについて、君の会社の幹部の一人に直接フィードバックした。その幹部は謝罪し、僕のフィードバックを検討すると言っていた。

Mark、実際の話、僕の経験は例外的な事例ではないとわかっている。何人かの他のスタートアップの創業者とFacebookの社員らは、僕が経験したことは体系的なM&Aの「方策」の一部だと教えてくれた。君のチームは「上手く交渉をする」ということと、君の「オープンプラットフォーム」上に作られた誰かのビジネスを破壊するとほのめかすことの違いを理解できていないようだ。脅しを使う交渉戦術のことはよく知っている。僕が音楽業界を相手にしていた時に、それを何年も経験している。誠意のない交渉というのは許し難いものだし、君の会社がこんなに卑劣だとは信じたくなかったが、どうやら僕が間違っていた。

僕は多くの面で、当然の報いを受けた。Twitterの「プラットフォーム」はFacebookの「プラットフォーム」よりもひどかったので、僕はこんな無謀なリスクをとることにした。質の高いソーシャルなソフトウェアを、友だちリストをユーザーに再び作成させることのないソフトウェアを、そしてoAuthを使わないソフトウェアを作ることを願う人間として、僕は非常に大きなプラットフォームリスクに耐えなければならない。個人的には、FacebookやTwitterのような「芯まで腐ったプラットフォーム」のために、もう一行もコードを書かないことにしている。学習したんだ。

Mark、FacebookやTwitterで働いている人たちが、間違ったことをやりたいのだとは僕も思っていない。問題なのは、FacebookやTwitterの社員たちが、君の会社の株価の下落を見てパニック状態になっていることだ。君の会社とTwitterは、広告収益のためならば、ーザーやサードパーティーのディベロッパーのエコシステムをもてあそぶことなど構わないということを、明確に示している。ディベロッパーやユーザーをもてあそぶという坂道を転げ落ち始めると、もう二度と止まることはないだろうと僕は思っている。

未来のソーシャルプラットフォームというのは、メディア企業というよりも、インフラのように振る舞うべきものだと思う。明確で持続可能なビジネスモデルを持ち、相互利用が可能な多くの小さなソーシャルプラットフォームが、君たちの足下をすくい始めるだろう。これらの未来の企業の評価額は現在のFacebookやTwitterに比べ、ほんの小さなものに過ぎないかもしれない。でも僕はそれでいいと思う。プラットフォームというのは実際の評価額ではなく、そのエコシステムが生み出す価値で判断されるべきものだ。

君や君の会社の社員が悪い人だとは思わない。ただ、君はユーザーやディベロッパーに沿わない金銭的な利益を重視したビジネスを築いたと思う。僕のプロジェクトがこの変化を引き起こすメカニズムではないとしても、将来、この変化は起こるべくして起こるだろう。

Mark、僕の知っている限り、君のことだからこの話をすべてを理解してもらえるだろう。そもそも、だからこそ君はFBのプラットフォームを始めたのだろうから。昔、君自身がよくFacebookを「ソーシャル・ユーティリティー」(ソーシャルな公益事業) だと言っていたのを覚えているだろうか。あれは面白い言い方だ。君があの言い方をするのをしばらく聞いていない。今の僕にはその理由がわかる。

とにかくMark、株式市場と君の会社の社員は君に温かく、君が「プラットフォーム」ビジネスの明らかな構造的欠陥を修復する時間を与えてくれるかもしれない。君の立場は佳境を迎えている。幸運を祈る。

それでは。

Dalton Caldwell

Dear Mark Zukerbergより

Facebookに限らず、twitter、Google、Appleなどが企業を買収し、その人材ごと自社のプロダクト開発プランに組み込んでいく手法は近年Acquire(買収)とHire(雇用)の二単語を掛け合わせて「Acq-Hire」と呼ばれています。

日本ではこれら企業に買収されると言った話は聞きませんが、欧米ではFacebookやTwitterが自社プラットフォーム上で人気を集めているサービスを運営企業ごとAcq-Hireすることは頻繁に起こっています。

その裏では、ひょっとしてこんな流れがあるかもしれません:

「うちのプラットフォーム上で、うちがやりたいと思ってる事を既にやってる奴らがいる。」

「うちで簡単に同じものができるか?」

「できるのならそのまま作れ。奴らはつぶれてもいい。」

「簡単にはできないのか。よしじゃぁ買収しろ。言う事を聞かないなら、つぶれても仕方がないと伝えるしかないな。」

「それでもダメならアカウントを凍結すればいい。」

実際にはそこまで露骨で悪質ではないかもしれませんが、Caldwell氏の手紙からは一部そのAcq-Hireに伴う上から目線な会話が想像出来るというわけです。

過去、twitterにせよFacebookにせよ、それらプラットフォームがオープンであるということ自体が売りで、そこに興味を示したデベロッパー達が様々なサードパーティアプリケーションを生み出して市場を盛り上げてきました。

そこに歪みが生じ始めたのはここ数年のことでしょう。

twitterは、数年前にいきなりその方針を変え始めました。

それまではサードパーティによるクライアントアプリ市場が盛り上がり、様々なツールが生み出されていました。

ところが、突然twitter自身が人気クライアントを開発するtweetieやTweetdeckなどの企業を買収し始め、それに対抗しクライアントの買収を進めシェアを上げ続けるUbermediaのクライアントアプリに難癖を付け、そのアカウントを停止するという事件がおこりました。

さらには「もうクライアントアプリはいらない」という宣言までをし、サードパーティーのクライアント開発者に実質上の死刑宣告を行ったのでした。

Facebookはメインのクライアントアプリは自社で提供しているものの、その例外に漏れず自社の利益に沿わないアプリケーションはバッサリと切り捨ててきました。

それら問題の原因は明確で、プラットフォームの収益が広告に依存していると言う事に他なりません。

このCaldwell氏の手紙と時を同じくして、実は全く同じようなことがtwitter社でも起こっていました。

それは、Flipboard協同設立者Mike McCue氏がtwitterの役員を退任すると発表した件です。

まさに私が上に書いた会話の通り、とまでは行きませんが、twitterは人気を博したキュレーションサービスFlipboardからMcCue氏を役員として迎えておりましたが、先日そのtwitterがSummifyの買収を発表しました。

見せ方は違うものの、どちらもtwitterのタイムライン上で言及されているニュースを個々のユーザーにカスタマイズして、まとめて見せるサービスの一種です。

McCue氏は、自社のサービスFlipboardの存続を懸念してtwitterの役員を退任したのでした。

勝手な想像をすると、McCue氏は「俺たちゃSummifyでニュースまとめテクノロジーゲットしたし、もうFlipboardに頼らなくていいや。もう、ニュースまとめ機能を公開するって発表したしねー。」という空気を感じているのかもしれません。

これらの話に共通するポイントは、「自分がやろうとしているサービスから得られるべき広告収益を、サードパーティーに侵食されているのはもってのほかだ。」ということであり、その内容は「オープンプラットフォームであること」とは全く矛盾するものです。

APIを無償提供し広告収益モデルに頼るという構図が覆らない限り、この矛盾は存在し続けるでしょう。

しかし、デベロッパーにとっては、存続に関わるリスクの話は今に始まったことではありません。

多かれ少なかれ、このようなFacebookもしくはTwitterのプラットフォームに依存するビジネスモデルを展開している企業には常にまとわりつくリスクなのです。

私も人のことを言っていられませんが、それらデベロッパーにとっては、明日どころか(特に日本人デベロッパーにとっては時差があるので)今夜中にも、それらSNS企業からアカウントを凍結されるかもしれないというリスクを常に頭の片隅に置いてサービスを作り上げているのです。

さらには、ひどい場合は追い打ちをかけるようにオフィスに「Cease and Desist letter」(排除命令の通知)が届くかもしれません。

その場合はまさに「死刑宣告」です。

過去のそのような例を見ても、各SNSはAPI利用ポリシーを公開しているにもかかわらず、停止されたサービスと類似したものが依然兵器で存続していたりと、誰が見ても「明確な理由による排除」ではない人工的な何か、もしくは「大人の事情」とも言えるものが見え隠れするのです。

そして、「あのサービスは全く同じものなのに凍結されていない、なぜだ?」「うちのアプリケーションはルールに100%従っているから復活してくれ」と彼らに伝えても聞いてもらえないのが現状なのです。

存続の秘訣は、twitterやFacebook幹部に好かれる事かもしれませんし、「目立ちすぎずに細々とやる」ことなのかもしれません。

そして、彼らの「Good-bye」は絶対的で有り、あとでどう掛け合っても復縁すると言ったような例は、今回のCBS twitterアカウント凍結&解除事件のように社会的に問題にでもならない限りありえないことでしょう。

それは下手をすればオリンピックの柔道の判定が覆ることよりも確率が低いでしょう。

要するに、デベロッパーたちは彼らをいわゆる「神」としてその絶対的な判断にゆだねたまま、お伺いを立てつつそこに乗っかったアプリから収益を頂いて、いつお上がポリシーの変更を発表したり、サードパーティーを排除したりし始めるのかと、びくびくしながらおまんまを食べていかなければならないわけです。

Caldwell氏のこの手紙は、彼のような立場にいる中では今までには誰も踏み込まなかったという領域に足を踏み入れたもので有り、そこに共感するデベロッパーの間で反響を呼び、そしてテックメディアがこぞって取り上げるまでに至ったというわけです。

もし、口にすれば明日がなくなる、そう考えているデベロッパーも数多くいたはずです。今までにネット上のフォーラムで散在する苦情は既に凍結されたデベロッパー達で有り、うまくいっているデベロッパーがそこに言及することは自分の首を絞めることになりますので滅多に見られるものではありませんでした。

これをポジティブにとらえるとすれば、デベロッパー達の中では、それらプラットフォームがマネ出来ないものを作っておけば、Acq-Hireの可能性があるという夢のある話なのかもしれません。

しかし繰り返しになりますが、日本ではまだこれら巨人によるAcq-Hireの恐怖は聞こえてきません。

日本語のみのサービスについては残念ながら彼らもそこまで興味を示さない、いや、彼らの耳に入るにも至らないのかもしれません。

私たち閉鎖された日本語圏だけに展開するサービスのデベロッパー達にとっては、そんなAcq-Hireははかない夢物語であり、常に上述の存続リスクにおびえながら過ごし続けなければいけないのでしょうか。

現地でのこのCaldwell氏やMacCue氏の勇気ある行動が、今後オープンプラットフォームと広告収益モデルという相反するものの組み合わせを、次の時代に向けて進化させる第一歩となることを願います。

ビジネスである以上、そして特にFacebookは上場もして株主の利益を追求せざるを得ない状況にいる限り、この大きな歪みを解消することは困難でしょうが、Mark Zuckerberg氏がここまで話題になったこのCaldwell氏のレターにどう反応するのかが楽しみです。

個人的には、収益モデルとデベロッパーとの有効的な関係を両立させ、更なるプラットフォームの発展を促進する新しい仕組みをZuckerberg氏に発明してもらいたいものです。

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