書籍『ウェブはグループで進化する(原題Grouped)』を読む前に知っておいて欲しいこと
2011年11月に米国でPaul Adams氏の書籍「Grouped」が発売されて以来、私は周りの人間にその書籍をひたすら薦めていました。
この「Grouped」は、私自身が長年にわたって実現しようとしている事業ビジョンの可能性を、様々なデータを裏付けとして体系的に証明してくれているだけではなく、現在身を置く事業カテゴリーにおいて今後もテキストブックのような役割を果たす書籍となるだろうと考えたからです。
確かに、Adams氏の前職場であるGoogle社が一旦「Grouped」の原型となる「Social Circles」の出版禁止を申しつけただけのことはある内容です。
残念ながら発売から9ヶ月間もの間、この書籍をお薦めできるのが英語を読める方に限定されていたのですが、とうとう遂に「Grouped」の日本語版「ウェブはグループで進化する」が発売されたという事で、早速改めて自分もその日本語版を読んでみました。
個人的にはこの邦題と帯のキャッチフレーズはちょっとねぇ・・・というのが第一の印象ですが、その理由はまた後ほど説明しましょう。
さて、この「Grouped」は日本語版でも十分に素晴らしい内容ではあるのですが、ところどころやはり欧米ウェブマーケティングのバックグラウンドの理解なしには誤解を生むであろうと思われる箇所が見かけられました。
原書でも同様の理由から誤解を生む可能性はありましたが、その度合いが日本語版では少し増長されているようです。
これは、別に翻訳に問題があるという事を言っているわけではありません。
「Grouped」の内容が大変魅力的であったため、今回は同じ書籍を原版と日本語版との両方で読むという私にとっては希な機会を持ちましたが、そこで初めてこういった専門的な書籍の翻訳というものは非常に困難で奥深い作業であり、翻訳者の方が研究を重ねられていくら苦労して言葉を選ぼうとも、表現しきれない部分や伝えきれない部分があるのだなと再認識した次第です。
今回は、普段あまり日本語資料では見受けられない米国Buzzマーケティングの歴史的背景をお話しし、原書から得られた私の個人的な所見を加味することによって、これからこのGroupedをお読みになる方にその内容をより楽しんでいただくためのプライミング(下地作り)を仕切り直すことが目的です。
なお、「自分が読む前には1ミリたりとも『Grouped』の内容を知りたくない」というネタバレを避けたい方は、ここで読むのをやめられた方が良いかもしれません。
その場合は、1度まず「Grouped」を読破してから是非また戻って来て下さい。
インフルエンサーマーケティングにおける日米時差
先ほど冒頭で「私自身が近年現在携わっている事業」や「現在身を置く事業カテゴリー」と具体的な説明なしに話を進めました。
私自身は、媒体となるソーシャルメディア上の個人と広告主とをマッチングさせ、そのブランドや商品を後押しするという「ソーシャル・エンドースメント」と呼ばれるビジネスに携わっております。
まさにこの「Grouped」は今後のウェブマーケティングの方向性として私の事業ビジョンの有効性をより明確に科学的検証してくれているという誠にありがたい一冊であるということです。
その内容では、ずばり最近日本でもやっと聞かれるようになったいわゆる「インフルエンサーマーケティング」の有効性を否定しています。
手短に言えば、「大きな影響力を持つユーザーを追いかけず、独立した小規模な友人グループに焦点をあてよう」と断言し、そのことについてひたすらデータを元に検証しているのです。
ところが、日本ではようやく2011年度に某企業が「インフルエンサー」というフレーズを商標登録申請したばかりであったり、2012年になってソーシャルインフルエンス関連の書籍が出回り始めるという、「インフルエンサー」を取り巻くマーケティング手法が「今から来るもの」の一つとしてとらえられております。
実は、私自身もこのような内容を書いておきながら、自社で運営しているサービスでもPR媒体となる個人を都合上「インフルエンサー(影響力者)」と呼んでいるのですが、本音を言いますと実はその言葉をあまり使いたくありません。
セコい話、昨年の時点で日本市場のこれからのトレンドを見込んでこの名称の採用を決定いたしましたが、近日その名称を撤廃することを検討しています。
実際にソーシャルメディア上の反響を計測するサービスQrustを運営し、日本ユーザーのほぼ全てを網羅して解析を行っておりますが、そこで明らかになったのはマスに向けて影響力のあるユーザーは、「Grouped」でも書かれていますようにほんの一握りしか存在していないという事実です。
そのごく少数のユーザーにアプローチして、アクションを起こさせることは困難です。というか、そんなユーザーほど簡単に話に乗ってきません。
これら「インフルエンサー・マーケティング」に関する問題は、近日別途お話ししたいと思います。
さて、話が逸れましたが、結論から言えば欧米での最先端のリサーチ結果のまとめであるこの「Grouped」と、日本の業界のトレンドとの間に時間のズレ、すなわち時差が生じているというわけです。
このズレの理由は単に「テクノロジーの波が遅れてやってくる」というおきまりの日米時差だけではなく、日米ウェブビジネス史の積み上げられ方の違いにも起因しています。
シリコンバレーBuzzマーケティング史
幸い、私はインターネットがWeb 2.0の時代に至るまでの時間のほとんどをシリコンバレーで過ごしておりましたので、その時代を肌で感じながら体験することができました。
その結果、日本のウェブマーケティング史においていくつかの要素が抜け落ちたまま現在に至っている点が見受けられるということに気づきました。
その詳細は、2011年7月に行ったセミナー用に作成しました、当時弊社サービスが「つあど」と呼ばれていた頃に作成したプレゼン資料「日本まで伝わってこないtwitterマーケティングの本質と、つあどの存在意義」をご覧頂ければと思います。
内容の一部は現在では陳腐化しているかも知れませんが、私の思うところの欠落部分がおおむねおわかり頂けるかと思います。
図解はそちらのプレゼン資料に任せるとしまして、ここでは簡単にシリコンバレーでのウェブマーケティングの歴史をBuzzマーケティング(Viralマーケティングや口コミマーケティングとも言えます)の観点から、文字のみでその道のりを駆け足でたどってみましょう。
リッチメディアマーケティングの盛衰
シリコンバレーでは、そのバブルがはじける2001年にとあるビジネスモデルが注目されていました。
当時Mind Arrow Systems社を筆頭として開発が進められていたそのビジネスモデルが、当時「リッチメディアマーケティング」や「リッチメディア広告」と呼ばれていたものです。
一見これは静止画と文字以外のメディア(アニメーションや動画など)や、クイズと言ったインタラクティブメディアを用いた広告配信ビジネスであると単純にとらわれがちですが、今を思えばこの時期がシリコンバレーが擬似的な口コミを体系的に発生させる仕組みの確立に躍起になっていた最初のフェイズであったと思われます。
ようするに、この時点で「個人を媒体」として、その「周りの小グループ」にPRさせることによってBuzz(口コミ)をシステマティックに発生させることをプラットフォーム化しようとしていた訳です。
まさに、「Grouped」が結論づけた次期ウェブマーケティングのあり方そのものですよね。
実は、ずっとそのような内容に興味を持っておりました当時26歳の私は、2001年にClick Reaction(クリックリアクション)という名称で同様のサービスに手を出しており、日本市場向けに販売を模索しておりました。
実際にその当時の記事がいまだにAsciiさんや日経BPさんに残っています。
当時は、ソーシャルネットワークなども存在せず、Macromedia Flash(現在のAdobe Flash)も普及しておりませんでしたので、ユーザー間コミュニケーションのベースとしてはメール添付、リッチメディアのベースとしてはアプリケーションを採用する、という結論でしたが、当時はSlashdotなどに「新たなウイルスやワームの配信方法」と揶揄されました。
結果弊社サービスの販売は芳しくなく終了となりましたが、同様にMind Arrow Systems社も今はウェブサイトごと存在しません笑
Mind Arrowに至っては、オプトインメールのビジネスに退化するという道筋をたどって最後は消えてしまいました。
また話がそれてしまいましたが、この時代では、コミュニケーションベースもBuzzを載せるプラットフォームも欠乏しており、うまくBuzzを生み出して循環させる仕組みを完結することが出来なかったと言うことです。
次に現れたのが「フォーラムコミュニティ」の時代です。
フォーラムコミュニティの乱立
無料もしくは安価に手に入るいわゆる掲示板ベースのコミュニティーがあらゆるテーマごとに設置され、100万以上のユーザーを集めたものも少なくありません。
フォーラムではテーマがある程度絞られているため、広告主には効果の高い広告媒体として重宝され、どのSEO書籍を手にとっても良質のコンテンツ集合体とされています。ただし英語圏の書籍に限りますが。
ここでは、特定のテーマに精通したユーザーを判別しやすい時代がやってきたのです。
実際にはvbulletinを始めとするそれらフォーラムコミュニティのプラットフォームには充実したユーザー管理機能が実装されており、それら価値のあるユーザーをモデレーターや運営者に引き上げていく仕組みが確立していました。
当然ながら、このフォーラムコミュニティはBuzzの発生地としてはかなり有効だったのです。
実際、私も英語圏でそのフォーラムコミュニティの肥大化と売却も経験したのですが、それを元に日本市場にその文化を持ってこようと試みて見事にコケた過去を持ちます(笑)。
その後、次に台頭してきたのが嵐のように現れて去って行ったいわゆるWeb 2.0という時代です。
Web 2.0メディアの激増
Buzzの媒体となる「個人」という観点からは、その情報発信源としてブログというメディアが発展し、客観的にある程度各Author(著者)への反響が「人気」という抽象的な指標だけではなく、トラフィックやコメント、トラックバックなどある程度数値化された指標で計測できるようになったという訳です。
それら個人Authorを利用しBuzzマーケティングを行うべく、(フレーズ登場の前後は別としましても、)ここでオンライン上の「インフルエンサー」という概念が生まれてきたというわけです。
要するに、既にある程度反響のあるユーザーにアプローチをして、イベントに参加させたり、記事を書かせたりしてそこを見にやってくるオーディエンスに訴えかけ、ブランドのPRを行い露出を増やす。
実際に、立派に現在でも行われている手法ですね。
動画マーケティングの成長
そしてBuzzマーケティングの「コンテンツ」と「メディア」という観点からは、YouTubeを始めとする動画ポータルの成長により、そこを踏み台とした口コミが定番となりました。
簡単に言うと「おもしろ動画」です。
この動画マーケティングは、どちらかと言えばAuthorを中心とするというよりかは、Buzzを体系的に発生させるためのコンテンツ作りのノウハウが成長した時期と言えます。
先述のリッチメディアマーケティングの時代には、闇雲に個々のユーザーの小グループに向けて小さなBuzzを発生させ連鎖させようとしていたのが、Web 2.0の時代になってある程度結果がありそうなユーザーをめがけて、そこを中心にある程度Buzzの発生が予想できるコンテンツを載せるスタイルに移行したという訳です。
このブロガーキャンペーンといえるべき段階のBuzzマーケティングの手法では、細かいプチインフルエンサーを対象とすることはコストが見合いませんからね。
ここである程度の拡散のパターンが読めてきたわけですが、問題はBuzzが目の届かないところで発生している点で、Buzzの経路や効果測定が困難なままだったのです。
手法の経験を積もうとも、Buzzの経過を遠い目で客観視するしかなく、結果大成功か墜落かの判断をするだけでした。
そして、ついにその後現れてきたのがソーシャルメディアの時代です。
ソーシャルメディアの台頭
そこでは、各ユーザーへの反響が、RTやいいね!といった数値で更に明確に計測できるようになりました。さらに、各ユーザーのつながり(ソーシャルグラフ)までが把握できるようになったのです。
要するに、Web 2.0の時代より高い精度で、さらに高い鮮度でインフルエンサーを見つけることが出来るようになりました。また、Buzzの経路のトラッキングと効果測定がある程度までできるようになりました。
しかし、企業のマーケティングのやり方はやはり、その中でもいわゆる「インフルエンサー」を抽出して、アプローチして、ブランドに言及させて・・・・と進化せず。
これが、現在も「インフルエンサーマーケティング」と呼ばれているものの実態です。
そしてそれが、「Grouped」の中では効率が悪い無駄な行為であると名言されている内容そのものであり、この次には、Adams氏のいう「独立した小規模な友人グループに焦点をあてる」手法の体系化が期待されているというわけです。
シリコンバレーBuzzマーケティング史の沿革
さて、長くなってしまいましたのでもう一度簡単にまとめますと、シリコンバレーのBuzzマーケティングはこのような流れをたどってきたことになります。
- リッチメディアマーケティングの時代、闇雲に小ユーザーを媒体として人工的なBuzzの発生方法を模索していたが、口コミのループが完結せず失敗。
- Web2.0の時代、効果が出ないので、コミュニティやブログで反響があるAuthorをインフルエンサーとして扱い始め、アナログ手法を絡めて強制的にBuzzを作ろうとしたが、Buzzの経路や効果測定が困難であり、結果としての数値しか得られなかった。
- また、このWeb 2.0の時代には、動画マーケティングの成長によって、Buzz Readyなコンテンツがある程度体系的に作れる様になった。
- その次にやってきたソーシャルメディアの時代、更に高い精度と鮮度でインフルエンサーが特定できるようになり、Buzzの経路や効果の測定が飛躍的に容易になったが、Buzzマーケティングの手法を完全に体系化するには至っていない。
- そして「Grouped」が教えてくれる。従来の旧式のインフルエンサーキャンペーンでは効率が悪いので、 「独立した小規模な友人グループに焦点をあてよう。」
さて、このシリコンバレーBuzzマーケティングの流れを見た上で、次に我が国日本を見てみましょう。
日本Buzzマーケティング史における歪み
日本では、私が上に挙げた「リッチメディアマーケティング盛衰」、「フォーラムコミュニティ乱立」、「動画Buzzマーケティング成長」、「インフルエンサーマーケティング登場」、その全ての基盤が抜け落ちてしまっているのです。
もちろん、これらが日本には全く存在しないというわけではありません。
シリコンバレーでは必ずこれらビジネスはプロセスの体系化、プラットフォーム化、学問への進化といった道をたどってきておりますが、日本ではまずその末端の先述手法が先行してしまい、それぞれのビジネスモデルでプラットフォームが確立されるには至っておりません。
その経験と基盤なしに、ソーシャルメディアの時代がやってきてしまっていると言うことですね。
ですので「インフルエンサーマーケティング」のプラットフォーム化などはもってのほかで、残念ながら「ブロガーキャンペーン」や「Pay Per Review」、「Pay Per Post」サービス止まり、しかもその現実としてはプロセスができるだけシステム化されているわけでもない、と言ったところです。
さらには日本では表だって「インフルエンサーマーケティング」を行うという道を選ばず、「ステルスマーケティング(ステマ)」の道をたどってしまい、昨年ビジネスモデル自体が一旦崩壊してしまっています。
米国と英国では既に数年前から法規制の地盤もできており、立派なビジネスモデルとして成長しているというわけです。
これらBuzzマーケティングの基盤が欠落した状態で、そして時間だけが圧縮された状態でいわゆるソーシャル・メディア・マーケティングの時代に到達してしまっているため、日本には前提となるべき体系化されたBuzzマーケティングの手法が存在せず、実際にそういった企画を練ることができるプランナーも欠如してしまっている状況です。
この日本Buzzマーケティング史における歪み自体が、「Grouped」日本語版自体に見られる、そしてそれを読む場合に発生してしまう、読者の認識のズレの原因となってしまっているようです。
Grouped日本語版で生まれる認識のズレ
冒頭で、「Grouped」日本語版のタイトルと帯のコメントに違和感を覚えたと書きましたが、まさにその2つが私の言う認識のズレを象徴していると言えるでしょう。
日本版タイトルの「ウェブはグループで進化する」と帯にあるキャッチフレーズ「次のウェブはこう変わる!」ですが、それを見た瞬間にこれは本書の本質には見合わないものだ、と感じたのです。
実際に感覚的にそう感じられたような方が、Amazonでもレビューに同様の事を書かれているようです。
先述の通り、シリコンバレーのBuzzマーケティング史では、当初より個人に訴求するBuzzマーケティングを模索していたわけで、その後ターゲティングが容易なことからいわゆる「インフルエンサー」型の手法に移行しました。
少し考えれば、リスクの高いインフルエンサーに10万円払うのであればその1/10の効果しか得られないであろうと想定される個人ユーザー10人に分散した方が結果は良いだろうと言う事は、20世紀の手法である「バナー広告媒体」に置き換えれば誰でも簡単に分かる話であり、実際にそれが理想であることは分かっているのですが効率良くそのアプローチを行うプラットフォームが確立されていないだけです。
ですので、Buzzマーケター達は常に、極めて体系的に無数の個人ユーザーにPRをさせBuzzを発生させる仕組みをずっと模索してきたわけです。
なぜなら、「Grouped」にも書かれておりますとおり、インフルエンサーを利用した「情報を拡散させようという試みの98%が失敗に終わる」ことが分かっているからです。
しかし、それがなぜか日本においてはBuzzマーケティングの地盤がゆるく、圧縮されて生まれた歪みによって、本来のBuzzマーケティングの本質自体がうやむやな話となり、認識のズレの原因になってしまうと言うわけです。
そしてそのズレが、なぜか「Grouped」を取り巻くコメントや書評、感想に、あたかもこの新しいグループ概念で次のウェブの形が決まってくる、というようなニュアンスを生み出しているのです。
実際には「Grouped」では「次のウェブはこう変わる!」ではなくこう言っているのです:
- すでにウェブはこのソーシャル化という変化の最中であり、
- オンラインの世界がオフラインに近づいて来ている。
- そんな中、よほどのことでない限り個人ユーザーが影響を及ぼす範囲は15人程度で3次つながりまで。
- そしてそこをベースとしてインフルエンサーを利用するマーケティング手法は無駄なので、
- 新たなBuzzマーケティング手法では独立した小規模な友人グループに焦点をあてよう。
ですので、本書の趣旨にあったタイトルとしては、できるだけ既存の邦題を尊重するのであれば、「ウェブはグループで進化する」ではなく、「ウェブはグループに進化している」の方が適切であるという訳ですね。
「Grouped」は、今後のウェブの新しい姿の予言をしている訳ではなく、ウェブ自身は本来有るべきオフラインの世界の姿に近づいており、今後のウェブマーケティングの手法はやはり従来考えていたとおり個々の小グループを中心とした手法を実現していくべきであると科学的根拠を持って証明しているだけなのです。
残念ながら、この日本語版のタイトルと帯のキャッチコピーが、本の中身を読む前からその認識のズレを植え込んでBuzzとして拡散させるプライミング(下地作り)を行ってしまっているという状況ですね。
バックグラウンドの理解なしにそれを見た方は、もうその前提で「Grouped」を読まざるを得なくなってしまうと言う事です。
その結果は、早速日本語でも散見され始めた同書籍の書評をGoogleから検索してお読み頂ければ一目瞭然でしょう。
いわゆるソーシャルメディアのビジネスに携わる方でさえも、そういう概念で読まれてしまっているようです。
言語のニュアンスによって生まれるズレ
さて、もう一つこういった専門書での障壁となるのは言語のニュアンスとその翻訳でしょう。
日本では特に流行ったフレーズが本来の意味からそれて広がってしまう傾向がありますが、残念ながら我々の業界では「ソーシャル」という単語がここ数年その筆頭格として君臨しています。笑
本来の「社会的な」という意味での「ソーシャル」では「ソーシャルワーカー」ぐらいしか耳にしなかった国民に、怒濤のようにウェブ方面から「ソーシャル」というフレーズが流れ込んできているわけです。
ところが、英語圏であれば当然その本来の「Social」があっての「Social media」台頭というステップがありますので、その意味と利用の変化を皆が体感して今に至っているわけです。
ですので、「Soacial」という単語を「社会」という単語に訳してしまうだけでは、その微妙な変化くみ取れないという問題があります。
そして、その罠はこの書籍を読み始めて「はじめに」の3ページ目から早速私の足を止めました。
「人の社会行動については、毎年何千件という研究が行われている。」
私の場合、早速そこで違和感を持ち、つまづいてしまいました。読み始めて1分もたたないうちにKindleの原書に戻ることになったのです。
「Each year, many thousands of research studies are carried out on social behavior.」
しかし、この翻訳が間違っているわけではありません。
実際に「Grouped」では、人間のオフラインでの社会行動を理解した上でウェブの世界がそれに近づいているとしており、この社会行動もある程度オンライン・オフラインの境目がブレンドされた意味合いを持ってきていると言う事です。
他のソーシャルメディア関連の日本語書籍では、このようなつまづきは感じた経験に覚えがありませんので、それだけこの「Grouped」が人間的なオフラインでの「社会行動」とオンラインでの「ソーシャル・ビヘイビア」を結びつけて、オンラインでのそれが人間行動の一部として扱っていることを物語っているのでしょう。
実際に次のパラグラフでは「本書ではフェイスブックに関する事例を多く集めている。」とあり、すでにオフラインの人間の行動の一プラットフォームとして、オンラインという世界がありますよ、という意味合いで「社会的(Social)」という言葉を使用しているわけです。
英文であればその微妙な意味の行き来を読み手側の感覚が自然にこなしているわけですが、日本語ではこの部分が「社会行動」となっていたため、私自身不思議な感覚に陥ったわけです。
ですので、「Grouped」を読まれる場合は、「ソーシャル」というフレーズが現れる箇所には「社会的な」というフレーズを、そして「社会」が現れる箇所には「ソーシャル」を頭に置いてみて、どちらに重みが置かれているかを咀嚼しながら進むとより理解が深まるのではないかと思われます。
「Grouped」をより楽しむ
さて、もうここまで読まれた方は、同書籍を楽しむためのプライミングのズレの修正と、四六時中浴びせられている「ソーシャル」というフレーズの先入観の除去が完了しているはずです。
今日この私の感じたことをここで皆さんと共有することで、一人でも多くの方にこの素晴らしい書籍の内容への理解を深めて頂ければと思います。
そして、ソーシャル・メディアに関するビジネスに携わる方々にはお薦めですので、まだの場合はぜひお読み下さい。
ひょっとすると、もしインフルエンサーを利用したビジネスを将来お考えの場合は、あなたのそのビジネスプランの前提条件を覆す事実が書かれているかもしれません。
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なお、今回触れました「インフルエンサー・マーケティング」の問題については、別途詳細な考察を近日公開する予定であり、既にそれについての執筆を始めております。
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